140字でおさまんないこと

見たい人だけ見てくれ

朝が来る

例えばの話になってしまって恐縮ですが、もし自己と自己の間にある境のようなものに落ちてしまったらどうしますか? あなたにはあまり想像もつかないかもしれませんが、考えてみてください。どうしますか? ……はい。……はい。そうですね。そうだと思います。自己と自己の間ですから、つまりそれは自身が自己の存在を理解できていない、認知できていない境界の話になります。それは自己だと云えると思いますか? 僕は言えないと思います。ですがそれは実際に存在しているのです。存在しているが存在を認知できていない自己、それは本当に自己と言えるのでしょうか。そういう話なのです、そういう次元の話をしているのです。あなたはどう思いますか? どう考えていますか? 考えていますか? ではそれを操っているのは誰なのでしょうか。自己ですか? 他者ですか? それともまた違うなにかですか? 自己を認識している自己をあなたは何と名付けますか? それはいつまで続きますか? あなたはいつもどこまで客観性を重視しますか。それはただしいことですか? あなたにとって客観性や主観性どちらに重きを置くことが正しいことですか。

 

「サハラさん」

 

はい

 

「起きてください」

 

え?

 

「おはようございます」

 

 

 

精神病棟という物に入ったことがありますか。

あそこは一面真っ白でなにもないんです。何故かわかりますか。真っ白なのは汚れがすぐにわかるからです。患者のほとんどは何らかの精神疾患や外的要因からいつも不安定な状態でいつどこでどういう発作が起こるのかわからないのです。ですから周りに物があると投げつけたりだとか飲み込んだりだとか壊したりだとかで何らかの被害があるでしょう。だからなんです。あそこはいいですよ。職員の人間は基本的にこちらの同意がなければ干渉してこない。理不尽という物がほとんどないんです。生きづらいと常々お考えのあなたにはおあつらえ向きな場所だ。しかし、だからと言っていくのはお勧めしないよ。君はあまりにも理性的すぎる。君にしばしば訪れる不安定な波を君は甘んじて受け入れているきらいがあるが、その中でも君は虚ろに目を開けてただそれをじっと見つめるだけでしょう。それにその波自体が君を次のステージへ押し上げる一つの要因となっている。君は荒波でもまれなければならない。君自身の進化が、君の周りの人間の進化につながる。脳を回転し続けなさい。目を開き続けなさい。すべてを見つめ続けなさい。それこそが君の糧となる。

さあ、朝だ。

 

 

 

 

「サハラさん」

 

「はい」

 

「ずいぶん遠くまで来ました」

 

「そうですね」

 

「ここはどこでしょう」

 

「もう何もないのだと思います」

 

「え?」

 

「なにもないんですよ」

 

「ほんとうに?」

 

「何か他のものが見えますか」

 

「……いいえ」

 

「朝が来ます」

 

「はい」

 

「朝が来たら、」

 

「はい」

 

「また歩きましょう」

 

「はい」

林檎の夢

 目が覚めるとそこは教室だった。

 朝の光が教室の中に降り注ぎ、いつもの騒がしいイメージからは程遠い静かな教室だった。お行儀良く並べられた机達は朝日を受けて薄い黄色の光を反射している。黒板はとても綺麗に掃除されていて新品同様の深い緑だ。年季の入ったフローリングは古めかしくはあるもののきちんと手入れは施されているようで、教室全体が澄んだ空気に満たされていた。なんだか世界全体の輪郭と僕の存在を保っている均衡が水面のように揺れる気分だった。ゆらゆらと淡く揺れる境界線が何だかとても心地いい。暫くは何も考えられなくてその波に飲まれるように揺蕩っていた。

 ふと、とある疑問が浮かんだ。

 一体僕はいつここに来たんだ?

 時計を見ると時刻はまだ朝の7時で、こんな時間に学校は開いていただろうかと思った。

 閉じられていた教室の扉に手をかけるとそいつは思いのほか簡単に開き、向こう側にはただの廊下が続くばかりだった。僕のいる教室の隣にはまた違う教室が並び、果てには家庭科準備室が見えた。おそらくその少し前の壁が途切れている空間は階段に繋がっているのだろう。窓には淡い水色が写り外の光景は伺いしれない。冬の空気を感じた。僕は廊下に出ようとは思わなかったので大人しく扉を閉めた。何の変哲もないただの学校だ。

 ハテ、と。暫く何もせず教室の中央に佇む。校庭側の窓には桜の木が見えた。ぼぅ、とそれを眺めているとふと学生時代の自分の席を思い出した。窓際の列から1つ内側に入った前から3番目。覗いてみると1冊の文庫本が入っていた。

タイトルには『林檎の夢』と書かれていた。

 

 『林檎の夢』には目新しい仕掛けもなく、一体どこの出版社が出しているのだと奥付を見ても、聞き覚えのない出版社で恐らく自費出版だろうということが推測された。林檎という名の少女が眠った時に見た夢をそっくりそのまま写した、言わば夢日記のような形で話は綴られていた。林檎という少女は重病で、病院から全く外に出られない体だったらしい。少女が病床でみた夢は奇々怪々、はたまた幼い彼女の可愛らしい願望を描いたような夢が多かった。

 他愛ない。そう思いながら読み進めていた。

 すると突如ガラリと勢いよく扉が開く音が聞こえた。そこでこの空間が今まで全くの無音だったことを知る。その音の方へ振り向こうとした時、僕は視界の端で赤いものを捉えた。

 僕の頭は音よりも先にそちらに意識を持っていかれた。

 それはりんごだった。

 窓にりんごの赤が反射し教室の中を照らし出す。

 窓の外ではたくさんのりんごが降っていた。

 

 

 真っ白な雪の中に立っていた。

 広い広い公園に雪がふり積もった場所のようだった。暫く空に手をさしだすとはらはらと雪が積もった。さっきまで何をしていたかが頭のどこかに突っかかって出てこない。

 うんうんと考え込んでいると、パシンと顔の右側に冷たい何かが当たった。その衝撃に僕は少しよろめいた。雪玉だった。突然のことだったのでいったい何がぶつかったのかわからず、思わず「痛い!」と叫んだのが後々になって恥ずかしくなる。それがどこから来たのかを目で追った。5.6m先に、ニッと笑った5歳ぐらいの女の子が立っていた。白いコートを身に着け白いマフラーをぐるぐるにまかれた彼女は得意げに僕を見つめた。恐らく僕に雪玉を投げつけたのは彼女だろう。彼女は僕の顔に上手く当たったのが嬉しかったのかキャッキャと笑っていた。僕は咄嗟に、彼女は僕の妹だと思った。

 

「林檎」

 

 と呼びかけるとその女の子は、ててて、と雪の中を笑いながら逃げていく。林檎が駆けると雪の上に小さな足跡が残った。そうだ、僕は妹と雪合戦をしていたのだ。

 

「林檎、待って」

 

 追いかけると彼女は逃げる。雪の地面に果てはないから、追い詰められるということを知らない彼女はひたすらにこの世界の端へ端へと駆けていく。ニコニコと笑う林檎は本当に楽しそうで彼女のこんな顔を見たのは一体いつぶりだろうかと僕は涙が出た。つかまえた! と彼女のわきを抱えあげてみると彼女はじたばたと暴れて僕の手からするりと抜けていった。僕に捕まりそうになると林檎は僕の足の間を走り抜けたり、あの手この手で逃げ回った。

 

「林檎、待って」

 

 林檎は待ってくれない。動き回って血液が回ったのか、彼女の透明な白い肌は朱に染っていた。一面の雪の中でその朱色はひどく映えた。ぷくぷくとまだ赤子のような彼女の頬はとてもまあるく、まさにりんごのようだった。

 

 後頭部に何かがぶつかる。目の前にいたはずの林檎はいない。僕は振り向いた。

 

*

 

「君さ、それやめた方がいいよ」

 

 一瞬なんのことだか分からなかった。

 

「え?」

 

 と聞き返すと先輩は怒ったような悲しいような顔をしていた。夕焼けに照らされた先輩の髪がなびく。学校からの帰路は住宅街を先輩と並んで帰るのが習慣だった。部活の終わった後では空はいつも少し暗く、家の方向が同じだからとそんなありふれた理由がその習慣の始まりだったはずだ。いつの間にこの人の髪はこんなに伸びたのだろうかと思う。

 

「そのペラペラよく回るくせに本心を一滴も注いでいない軽薄な語り口」

 

 自転車を押していた先輩は僕の2,3歩うしろで歩みをとめた。まさか止まるとは思っていなかったから僕も歩みを止める。遠くで小学生の遊ぶ声が聞こえる。私は君のことを理解したいのに君はいつもそれを拒む、と先輩は言った。

 先輩と向き合う。

 

 理解されたいと嘆きながら、本当のところ他者から君への理解を1番拒んでいるのは君なのさ。じゃなかったら、のらりくらりと私から逃げ回ったりしないだろう? 私はもう疲れたのさ。君は自分を理解しているのが常に自分でありたいだけなのさ。自分の愛を自分だけのものにしたい、そんな強欲が君の本性さ。だから他者にそれを渡さない。絶対に。気まぐれに私を掻き回すのはやめてもらえないかな。私は君のひとりぼっちの自作自演に付き合うほど酔狂じゃない。

 

 はらはらと先輩の頬を伝う涙をすくうすべを僕は持たなかった。ぎゅう、と握りしめられた先輩のこぶしが痛々しい。でもやっぱり僕は彼女の言っていることが全部は理解できなくて困ることしかできなかった。

 先輩は僕の美術部の先輩で、いくつか賞をとっているようなすごい先輩だった。いつも難しいことを考えていて、帰り道に先輩はよく僕に向かって語り掛けてくれたけれど当の僕が理解できたことは少なかった。先輩の描く色彩はどれも色鮮やかでそれが評価されていた。

 ガチャン、と先輩が自転車にまたがる。

 

「じゃあね」

 

 先輩が泣いている。

 

「僕、先輩の描く絵好きです」

 

 そう言ったら先輩は

 

「なにそれ」

 

 と言った。

 夕焼けに先輩が消える。

 先輩の描く絵はいつもこんな赤色だったと思った。

 

*

 

 背の高い、山高帽の男につけられる夢をよく見る。

 そいつは黒の燕尾服を着て僕を見ている。顔はよくわからない。そいつはいつも僕よりも先にいる。四つ辻の角からいつもこちらを見ている。気づいた時にはいつも見られている。一体いつから見ていたのか確認しようにも、毎回そこに来た時にハッと、山高帽の男の存在を思い出す。回避することが出来ない。奴の目を直接見た事はない。でも確かに目が合っている。僕はその繋がった視線をそらさず、真っ直ぐ四つ辻を通り過ぎるのだ。

 

「おにいちゃあん」

 

 妹が突然泣き出すことがある。僕と帰っている最中に、だ。彼女とはまれに一緒に帰る。やはり彼女もその男の存在を認め、そのようにポロポロ涙を零すのだ。

 彼女は真っ直ぐに指を指す。例の男のいる方向に向かって。僕はそこに何があるのか、なぜ彼女がこわがっているのか、分かっていながらただ彼女に

 

「だめだよ」

 

 とだけ伝える。彼女は僕の顔を見ながらまだ玉のような涙をこぼす。

 

「分かった?」

 

 そう言うと彼女はコクンと頷く。僕達ふたりはあと数十メートルの帰路をなるべくやつから遠ざけるような位置に妹を置きゆっくりと歩き出す。妹は僕の服の裾を握る。僕はその妹の手の上に自分の掌を重ね、ギュッと強く握りしめる。今思えば妹の小さい手をギュッと力いっぱいに握ったはずだから彼女だって少しは痛かったはずなのに、それに対して彼女が何か言うことはなかった。

 

 ある時、ある日の夕焼けの赤い帰路で、奴の隣を妹と慎重に通り過ぎようとした時だった。

 奴の隣をやっと通り過ぎる、そんな時だ。いつもは無口な奴が、フフっと笑ったのだ。

 まるで嘲笑うかのように、フフっと、笑ったのだ。

 僕はそれにとても驚いた。いつもは絶対に振り返ったりしないが、その時は奴がいる方向を振り返った。そして僕はその時に妹の手を離してしまったのだ。

 

「振り返っちゃだめだよ」

 

 それは誰の声だったか。振り返った先に山高帽の男はいなかった。ただひとり僕が四つ辻の真ん中で立っているだけだった。喉元をベトベトした汗が流れる。ゴクリと生唾を飲んだ。夕焼けに照らされ赤く燃えるような地面の中1人佇む自分の影だけを認め、僕は妹の手を離したことに気がついた。そこには今までいたはずの山高帽の高圧的な視線も僕の妹の姿も、何も無かった。

 本当に、何も無かったのだ。

 

 

 

「とてもじゃないけれど、私の口から言えたことではないわ。」

彼女の語り口はとても軽やかである。ふふ、と微笑をたたえる彼女。赤いワンピースのはしがゆうらりと揺れる……。

「なにも僕は明確な答えを求めて言っているんじゃあないよ……」

アラッ、そうなの、と彼女。

「あなたの話はいつでも的を得ていなくて私は退屈だわ。」

キィと啼きながらブランコも揺れる。彼女の動きに合わせて……。

僕と彼女はすっかり汗をかいてしまったソーダを、いっせーのーでで飲み干した。

7月に入ったので

 繋がり、というのは人間にとってかけがえのない要素であるのにも関わらず、昨今はSNSの普及により繋がりたい放題だがその一つ一つは希薄なように思う。

 繋がりには二種類あって、一つは欲望。あれが欲しい、これが欲しい、あの子が欲しい、あの子の心が欲しい、そう自分のために。そういった自分本位な繋がりが欲望。対して、もう一つは愛。何かを愛おしむ気持ち、大切にしたいという気持ち、そういった相手にベクトルの向いた繋がりが愛なんじゃないかと私は思う。

 前者はその物体や相手がそばにいなければ繋がることが出来ない。相手を手放したくないがために裏切ったりもする。偽りたい、奪いたい、報われたい……。それもこれもどこに起因するかと言うと、自分は傷つきたくないという自己愛からだ。人間とは傲慢なもので、自分が一番可愛いのだ。傷つきたくない、傷つかないようにするために偽るし、裏切るし、奪う。欲望は酷く脆い。とても脆い繋がりなのだ。

 逆に、愛は傷つかないと手に入らない。たとえ自分がとても醜い存在で相手に嫌われるかもしれなくても、自分が傷ついてでも全てをさらけ出し、相手を思いやること、それが愛なんじゃないだろうか。だから愛は、そばにいなくても、もう会えなくても、報われなくても、伝わらなくても、その繋がりは存在し続けるのだと思う。

 

(一応言っておくと、これはさらざんまいの話です)

 

 この話ちゃんと書こうと思ってさらざんまいの最終話だけちょっと見ようと思ったらいつの間にか全部見てた……。止められなかった……。

 さらざんまいは本気で救済でしかないのよな……。さっき欲望のネガキャンを無茶苦茶したように思うけど、でも、欲望がなかったら誰とも繋がりがなく、はじまらずおわれない誰ともなんの接点もない絶望の世界で生きることになるんだ。だからさらざんまいは「欲望を手放すな」って何回も言っている。欲望を手放したら本当に絶望しかないから。欲望を繋ぎ続けるものだけが未来を繋ぐことが出来る……。

 最終話は本気で泣けて、登場人物の男の子が過去に罪を犯してそれを精算したあと、肉親も兄弟もなくし街とも全部の繋がりをなくした中で「それがどうした!!」って叫ぶんだ……。「それがどうした!!」

 

😭😭😭

 

あまりにも力があって生命に溢れててもう、ほんと、生きろ!!みたいな……。普通に考えたら、両親も兄弟もなくしてなんのつながりもない状態なんて圧倒的絶望でしかないはずなのに、「それがどうした!!」と叫ぶ……。昨今の繋がりの弱さや自分は孤独なのかもしれないっていう不安に対してこの台詞はもはや脅迫ですらある……。みんなは言えるか?「それがどうした!!」って言えるか?言えるか?私は言えないよ……。それもこれも、彼にはそばにいなくても、報われなくても、もう会えなくても愛している人達がいるから出来たんじゃないかなと私は思っている。愛っていう繋がりは時空さえ超えて、彼らの間をずっと繋いでるんだと思う。その繋がりを信じているから彼らは生きていける。未来に進める。

 

 そこで私はいつもとても悲しくなる。

 現実問題、無理でしょ……と。

 君にはいるか?傷ついてでも繋がりたい相手。自分よりもその人を大切にしたいって思う相手。

 たぶん、これからどんどん世界は冷たくなって、人はどんどん孤独になるんじゃないだろうか。きっと将来には、私の傲慢も怠惰も嫉妬も全て、指摘してくれる人はいなくなって、みんなはもっと賢くなってそういう人間から離れていくんだ。人は孤独になるんだ。

 誰とでも繋がれるっていうのは、逆に、繋がれない人間は誰と繋がっても繋がりを切られやすいってことなんだと思う。だって代わりがいるからね。

 もっと賢くならなきゃダメだ、そう思う反面、賢くなるならないなんてことは関係ないんだってのも分かってるから悲しくなる。

 

まあそれだけの話だ……。繋がりがないと生きていけない人類は、これからどうすればその繋がりを得ることが出来るんだろう。人はそのうちすぐ死ぬようになるかもしれない。孤独は耐えきれない。仕事が辛くても生きるのが辛くても、孤独じゃなかったら生きられるのかもしれないが、孤独だったらもうダメだろうなってよく思う。

 

 

おわり

 

一体どういうものが求められてるのかな?とか考えると、求められてるのをするのが演劇なのかな?とも思う。私のやりたいことをやるのが多分一番いい。それが私にとっては舞台上での密なセックスだったり男性性女性性の冒涜だったりそれを前面に押し出した嫌悪感だったりする。でも、それをただ行うだけではメッセージ性とかに欠けて不快感しか残らないのかな?それってただの自慰になっちゃうのかな?とかも考える。わざわざそれを舞台にあげる意味ってなんだろう?でも他の人がしないことをしたい。

~~~?😫😫

 


演劇って難しい、、、

ノリで書いた

歳を経るにつれて確固たるものというのがなくなって参りました!と、垂れた自分の腹を見て私は思います!毎日は淡々と過ぎ去るばかりでそこに思い入れなどありません!あるのはただの空虚ばかりです!私は一体何を信じて生きているのか?なんとなくという感情のみで生きたばかりに隣で眠る男の存在を私は信じることが出来ません!テーブルの上に置いてある幾枚かの紙を手に取り私はそこを立ち去ります!

夜の繁華街は恐ろしいけれども魅惑的です!私の後ろを1人歩く女の子がおります!その娘が私を見つめます!私は歩くのをやめ、その娘と向かい合いました!その娘は口を結び澄んだ眼を私に向けます!ああ!なんと美しいのだろう!

 


 


「……こっち見ないでよ」

 


 


幼き日の記憶というのは尊いもので、私はその時の一日一日を忘れることができません!あの時は母も若かった!いつの間にやら親は死にました!幼き日の、あの、確固たる日々、確固たる時間、私はこのために生まれてきたのだなと自分の存在を認められたあの時間!未来に期待などありません!嘘です!私は今も期待して生きているのです!あの時間!大人かみんな忘れてしまうあの時間を!私は取り戻したいのです!あの輝きの時間を!

 

 

 

 


男の子とキスをしました。

それは私の好きな人でした。

ひまわり畑に駆け出したあの子を私は追いかけたのです。

待って、と私が叫ぶとその子は立ちどまりました。

その子は泣いていました。

どうして泣いてるの?とたずねました。

彼は何も言いませんでした。

私は彼が何も言わないことを心配する反面、少しドキドキしていました。

 


だって、彼と二人きりなんですもの。

だって、私は彼がとっても好きだったんですもの。

 


突然でした。

彼は私を抱き寄せキスをしました。

彼の舌が私の口内を暴れ、私は初めてと突然のことに驚いて何も出来ませんでした。

驚いている間に私と彼は離れました。

二人の間を銀色の糸がつたいます。

太陽のてる暑い夏の日でしたから、それがとても輝いていて恥ずかしくなったのを覚えています。

ノンフィクションに限りなく近いフィクションな夢の話

小学校の給食のことを思い出していた。

私が唯一嫌いなメニューはコッペパンで、コッペパンが出る度に牛乳と一緒に食べてふやかしていた。そうするとコッペパンの無味感がずいぶんマシになるのだ。牛乳の大半がそれでなくなってしまうので、牛乳好きの私はたいそう悲しかった。シチューと一緒に出る時もあった。そんな時はシチューに付けて食べていた。シチューのいいお供だった。私はシチューが好きだった。

こんな夕焼けと共に帰路についたことを思い出す。今日は随分昔の話を思い出すものだ。私は学童に通っていた。

学童と言っても、学校にあるところは既に定員がいっぱいで個人が経営しているところに通っていた。同じ小学校に通っている子と共にそこに帰った。4車線ある大通りの信号のそばに咲いている金木犀をよく覚えている。私は地元の匂いが好きだ。春には春の香りがし、秋には秋の香りがした。

人間はどうして働くのだろうと考えた。あの頃に比べれば随分自由なはずだがとても不自由だ。もっと歳を重ねれば体の老いを感じ始めるのだろうと空想する。出来たはずのことが出来なくなるのは悲しい。

私は変わってしまったのだろうかと考える。1か月前の私と今の私は本当に同じ私だろうか。人格とはどこから来るのか。1日に細胞はウン十万単位で変わるという話を思い出す。一貫性と連続性がない感情をはたして同人物と呼べるのか。1週間前は一体なんだったのか。私にとって演劇とは何なのか。好きってなんだろう。執着とは何だろう。この胸に渦巻く得体の知れない感情を何となずければいいのか。人には言えない秘密が増える……。

そう、秘密が増えるのだ。秘密がひとつくらいあった方がミステリアスでいいわよ、なんて言う人もいるがそんなものは儚い今にも消えそうな女性が持っているからいいのであって、私みたいなチャランポランが持っていてもなんでもない。ただの不和の種だ。

押さえつけた感情こそ美しいと思う。それは例えば怒りであったり、喜びであったり、悲しみであったり。なんでもいいのだが、押さえつけられた感情は美しい。純粋無垢だったものを圧縮し出来上がったどろどろを私は見てみたいのだ。

ああ、支離滅裂だ。そろそろ終わりの時間のようだ。今私が生きている時間は、死ぬ間際に見ている走馬灯だと言った人物がいた。ナルホド、と私は思った。それなら幸いだ。私は確実にどこかの段階で死ぬのだという希望が満たす。何を?君は何を言っているんだ?この世が希望で充ちたらいいのに。

 


おやすみなさい……。