140字でおさまんないこと

見たい人だけ見てくれ

そこで彼は、如何にもだという態度で尤もだという顔付きで立派に姿勢を正して立っていたので、てっきり私は彼が先輩の言葉をすべて理解しているものと思い込み、質問をしてしまった。

 


「もしもし。実は私はさっきから先輩が喋っている言葉が全く分からないです。日本語かどうかさえも危ういです。だけども、見るに君は先輩の言葉をすべて理解しているのではないですか?よければ優しく教えて欲しいのですが、如何でしょう」

 


そこで彼は堂々と言った。

 


「僕が分かるわけがないだろう」

 


私は面食らってしまった。それはあまりにも彼が堂々としていたということもあるし、堂々としすぎているあまり彼がなんと言ったのかきちんと受け止めることが出来なかったからでもある。彼は続ける。

 


「そもそもだね、君。あいつの言葉を理解しようとしているのが間違いなんだよ。理解しなくていいし、なんならあんなやつの言葉は聞かなくていいよ。ゴミだよ、ゴミ。なぜなら彼は三浪した挙句、現在既に一留するという大罪を犯しているんだからね。一族の面汚しさ。ああしてここで胸を張ってなんだかよくわからない持論を展開しているのも彼が無駄に歳を重ねてきたからに他ならない訳で、彼は今何も知らない1回生の君たちを自分の傘下に取り入れようとしている大馬鹿者なんだよ。だから、君はあいつの話を聞かなくていいよ。道端に落ちているゴミに注意を払う人間なんていないだろう?」

 


機関銃のように吐き出される言葉たちの後に紡がれたその質問はハイかイエスだった。私は素直に首を縦に降り、彼はその姿に満足したのか

 


「それでいいんだよ」

 


と微笑んだ後、またさっきの顔に戻り彼曰くゴミであるところの先輩の話をふんふんと聞き出した。私はこの時、ゴミである先輩のことをあいつと呼んだことから彼は年上であるのかと気づき、今の一瞬見せられた笑顔はなんだったんだと困惑し、彼の目もとでチャーミングに位置されているホクロに目を奪われていた。

いや、端的に言おう。

私は彼に心を奪われていたのだ。

これが私と彼の初めての応酬であった。