昔書いてどこにも出せずじまいだった短編②
「死んだんですって」
「…」
「私の夫」
「…」
間
「私信じられなくて」
「…」
「しかも夫の体を渡せって言われました」
「…」
「死んだのに」
「…」
「死んだのに、ですよ」
「…」
「…いや、死んだからか」
「…」
「体は生きてるのに」
間
「あの」
「何でしょう」
「…いや」
「そうですか」
間
「これからどうしよう…」
「…」
「まだ小さいんです」
「…」
「私が養っていかなきゃいけないんです」
「…」
「夫をこのままにしておくのにもお金がいるらしいんです」
「…」
「今ならあなたの旦那さんの体は、他の人の中で生き続けることができますよ、ですって。他の人の体内で生きていたとしても、夫の中になければ意味ないのに」
「…」
間
「あ、そういえば花束、ありがとうございます」
「、いえ」
「こんなに綺麗なの、ありがとうございます」
「…」
間
「概要は聞きました?」
「えっ?」
「夫の、こうなった理由」
「あ…交通事故とだけ」
「そうですか」
「はい」
間
「貧血だったらしいです」
「え?」
「夫。事故の時」
「は、」
「貧血で、ついふらふらと」
「…」
「横断歩道に出たらしいです」
「…」
「碌な食事取れてませんでしたから」
「…」
「あなたは大丈夫なんですか?」
「えっ?」
「会社。今日はどうしたんです」
「…代表してここに行けと」
「波風立てたくないんですね」
間
「すいません」
「どうしてあなたが謝るんです?」
「御社が」
「それは会社の責任で、あなたのものではないでしょう」
「しかし」
「そこまで自覚しているのに、なぜ改善されないんだか」
「…」
「辞めたほうがいいですよ、今すぐにでも」
間
「脳みそ、小さかったんですって」
「え?」
「夫。CTスキャン?したんです」
「…」
「常人のふた回り程。小さかったそうです」
「…」
「まあ、夫の脳が元々どの程度の大きさだったかなんて知りませんから、それが元の夫の脳の大きさだったのかもしれませんけど。それが意味するのがどういうことなのかなんて分かりませんけど」
間
「私……」
「はい?」
「私、会社辞めません」
「そうですか」
「はい、辞めません」
「他人の人生ですからね、私に口出す権利はないと思います」
「毎日通います」
「好きにすればいいですよ」
「辞めずに働きます」
「頑張ってください」
「はい」
「おかあさん」
「はあい。待ってて」
「お子さんですか」
「そうです。今日はありがとうございました。わざわざ」
「いえ」