140字でおさまんないこと

見たい人だけ見てくれ

昔書いてどこにも出せずじまいだった短編②

 


「死んだんですって」

「…」

「私の夫」

「…」

 


 


「私信じられなくて」

「…」

「しかも夫の体を渡せって言われました」

「…」

「死んだのに」

「…」

「死んだのに、ですよ」

「…」

「…いや、死んだからか」

「…」

「体は生きてるのに」

 


 


「あの」

「何でしょう」

「…いや」

「そうですか」

 


 


「これからどうしよう…」

「…」

「まだ小さいんです」

「…」

「私が養っていかなきゃいけないんです」

「…」

「夫をこのままにしておくのにもお金がいるらしいんです」

「…」

「今ならあなたの旦那さんの体は、他の人の中で生き続けることができますよ、ですって。他の人の体内で生きていたとしても、夫の中になければ意味ないのに」

「…」

 


 


「あ、そういえば花束、ありがとうございます」

「、いえ」

「こんなに綺麗なの、ありがとうございます」

「…」

 


 


「概要は聞きました?」

「えっ?」

「夫の、こうなった理由」

「あ…交通事故とだけ」

「そうですか」

「はい」

 


 


「貧血だったらしいです」

「え?」

「夫。事故の時」

「は、」

「貧血で、ついふらふらと」

「…」

「横断歩道に出たらしいです」

「…」

「碌な食事取れてませんでしたから」

「…」

「あなたは大丈夫なんですか?」

「えっ?」

「会社。今日はどうしたんです」

「…代表してここに行けと」

「波風立てたくないんですね」

 


 


「すいません」

「どうしてあなたが謝るんです?」

「御社が」

「それは会社の責任で、あなたのものではないでしょう」

「しかし」

「そこまで自覚しているのに、なぜ改善されないんだか」

「…」

「辞めたほうがいいですよ、今すぐにでも」

 


 


「脳みそ、小さかったんですって」

「え?」

「夫。CTスキャン?したんです」

「…」

「常人のふた回り程。小さかったそうです」

「…」

「まあ、夫の脳が元々どの程度の大きさだったかなんて知りませんから、それが元の夫の脳の大きさだったのかもしれませんけど。それが意味するのがどういうことなのかなんて分かりませんけど」

 


 


「私……」

「はい?」

「私、会社辞めません」

「そうですか」

「はい、辞めません」

「他人の人生ですからね、私に口出す権利はないと思います」

「毎日通います」

「好きにすればいいですよ」

「辞めずに働きます」

「頑張ってください」

「はい」

「おかあさん」

「はあい。待ってて」

「お子さんですか」

「そうです。今日はありがとうございました。わざわざ」

「いえ」